自転車に興味を持ち始めてから愛読している『疋田智の「週刊 自転車ツーキニスト」』というメルマガ(名前の通り、自転車関連の本を多数出されている疋田智氏のメルマガ)で、「自転車の車道締め出し」に向けての法整備が進められているという事を知りました。
毎日更新を楽しみにしている、高千穂遙氏の「Takachiho-Notes」でも、この話題が取り上げられています。
また、こちらのページによると、上記メルマガ270号のメイン記事は転載自由ということなので、以下に転載させて頂きます。
疋田智の「週刊 自転車ツーキニスト」 270号より転載
【緊急】幽霊が幽霊でなくなった
■ついに来たか!
「航空自衛官が、深夜の合同演習!」なんて、おバカなことを書いているうちに、ホントにヤバいことが、着々と進行していた。
例の警察庁「自転車対策検討懇談会」の話だ。
彼らは、昨日(30日)、1.子どもや高齢者、買い物目的などでの利用の場合
2.交通量が多く車道が著しく危険な場合の二つの場合に限り、歩道での自転車通行を認める、という提言をまとめたのだという。
朝日新聞の記事はこう伝える。
こちら。
ちなみに産経新聞はこうだ。一応左右のバランスをとってみた(笑)。
こちら。いや、笑いごっちゃない。
これはいったいなんだ?一見、口当たりがいい提言だけに、これは真面目に危機だぞ。■「車道締めだし」の亡霊再び
文言を何気なく解釈するなら「あ、そ。車道は危険だからね。老人子供は歩道でいいんじゃない?よっぽど危険な車道も、歩道でいいよね」と、通り過ぎてしまいがちなんだが、私の率直な感想を言うと「出たな妖怪、またまた出たな、警察庁&交通安全協会」というところだ。
この「提言」とやらは、まさしく「蟻の一穴」というヤツで、容易に次のステップを踏める可能性をたたえている。また現実として「歩道通行は当たり前」という誤った常識があるだけに、私はかなり危機感を持っているのだ。
いや、「提言」というより、これはこのまま「法律改正案」となり、来年の通常国会に提出されるのだ。法案の卵と言いきってしまった方がよろしい。
そして、その「法案の卵」が向いている方向性は、ただ一つ。「自転車の車道締め出し」にある。
以前、騒がれた(というより、私が一人で騒いでた、のか?)「自転車車道通行禁止法案」の時のことを思い出していただきたい。
このメルマガでも「警察庁に、自転車・車道締め出しの動きがある。これはヤバいぞ」というようなことを、しきりに書いた憶えがあるのだが、その時には、何だかんだで、彼らはいったん法案提出をあきらめたように見えたのだ。
だが、亡霊は生きていた。
亡霊は妖怪に変身し、今、我々の前に現れた。
なにせ、今回の話と、前回の話、中心メンバーは、ほぼそのまま重複しているのだ。実のことを言うと、今回の改正案は「押し戻し」の結果だったのだという。
ある信頼すべき情報筋によると、当初の草案には、あろうことか「今後、自転車は、順次、原則歩道通行のみを可能としていくこと」が盛り込まれていたのだそうだ。
改正案のメンバーの中に、自転車派が2人おり、その彼らが強硬に反対して、なんとか押し戻した結果が今回、というわけ。このエピソードからも明らかなように、警察庁は明らかに「車道からの締めだし」を狙っているといえる。
中心となっているのは、警察庁のキャリア官僚とそのOB、数人だ。
彼らこそが随分前から「車道からの締めだし」を口にしてた連中で、彼らは自転車の有用性について、まったく分かっていない、というより、日本の道路に自転車は要らない、とすら考えている。
私はかつて、その中の一人に、面と向かって「自転車が車道を走る必要はない」と言われたことすらある。■一番やばいところは何か?
今回の提言の中で、最も危険な香りがするのは「車道通行が著しく危険な場合」の部分である。
考えてもみていただきたい。「著しく危険」というのを判断するのは、いったい誰なのだろうか。
もちろん警察当局である。
そして「車道通行が著しく危険な場合」とは、どんな場合、いや、どんな道路だろうか?
恐らく都内の幹線道路はすべて、というようなことになろう。ママチャリに乗る一般の人がそう感じているとおりだ。
一般のママチャリ市民にとっても、まあ理解しやすい。だが、問題なのは、その次なのだ。
ならば、その当該の「著しく危険な車道」について、自転車が走る権利は、今後、担保されるだろうか?私は絶望的だろうと思っている。
歩道通行が当たり前だと指定されたとき(現在のように例外規定ではなく)、法解釈上、当該の車道について、自転車が走る正統性はなくなるわけだから。
だいたい「著しく危険」と指定された道路を「通ってもいいよ」なんて言えるわけがない。たまらないのは「著しく危険な場合」をどこまで解釈し得るか、まったくの規定がないところだ。
どの程度が「著しく危険」とされるのか、まったく分からない。そもそも「危険」というなら「危険がない道路」なんてあり得ないんだから。
ということは、その解釈次第で、いかようにでも法律運用が可能となるわけで、つまりは都内の主要道路がほぼすべて「著しく危険な車道」と指定され、結果として「車道通行禁止」になる可能性が強いということなのだ。これは決して大袈裟に言っているわけでなく、近い将来の現実である。
■これからのシナリオ
今回の改正案の向こうにあるのは、確実に
歩道解禁(老人子供など)→歩道解禁(一般にも)→車道規制(一部に)→車道規制(全般に)→車道原則禁止→車道全面禁止
という話だろう。
なぜならば、この改正案を作った人たちがそれを望んでいるわけだから。いやしかしなぁ。タマランぞ、これからは。
前回と違って、今回は、来年の通常国会に、確実に道交法改正案として提出される。その動きはもはや止めようがない。
では、国会に実際に提出されたのち、国会議員たちが否決することが可能だろうか?
私はここも絶望的だと思っているのだ。
現在の議員たちのほとんどは自転車のことなんてマトモに考えたこともないし、興味もないから。
だいいち「78年の悪夢」という例が、現実として存在するのだ。ご存じだろうか。
自転車を歩道に上げた道交法63条の改正について、衆参両議院は、なんと「全会一致」で可決したのである。
全会一致ですぞ!
あの悪名高き「道路交通法63条」が……!
実質的に、何の議論も経ずに、いきなり全会一致で可決……。くー、いったいどうしてくれよう。
我々は今後いったいどうすればいいというのだ?!■今回の「提言」最初からの矛盾
しかしなぁ。
私はほとほと
呆れ果てたよ。だいたいだね、「(主に歩道上の)自転車が加害者としての事故が激増している」という現実をとって、その解決策を「歩道上の自転車解禁」とする、というのは、誰がどう考えても矛盾だろう。
矛盾、というより、間違っている、というより、本末転倒、というにも足らず、ただ単に知能が低いとしか思えん。
どこの国の人に聞いても、お国の警察は気でも違っているんですか?というだろう。もしかしたら、日本の警察というのは、本当に馬鹿なのではないだろうか。
罵倒の「バカ!」ではなく、本当にアタマが悪いという意味での「バカ」だ。
各人の思惑の調整、とか、妥協、とか、そういうことで、法案がねじ曲がるということは、往々にしてあったりするわけだが、今回の話は、ホントに「知能が低い」というのが原因なのではないか、という推測である。
ひょっとして、この推測は、正しいのかもしれない。
警察官僚は、ただ単に知能が低いゆえ、現状の正しい認識ができないのだ。だが、困ったことなのは、この悪しき改正案は人口に膾炙されがちなところだ。
つまり、一般の日本人には「あれ?歩道通行が当たり前じゃなかったの?」と思われがちな点にある。
だが、そっちの方が圧倒的に間違っているのだ。
色々な意味で、その認識が大きな誤解に基づいているというのは、このメルマガを読んでいる皆さんは、とうにご存じの通り。
それが今。
警察庁と、法律によって、黒が白にひっくり返されようとしている。間違っているという端的な例をあげるならば、先進各国の中で、日本だけが自転車を歩道に上げているという事実。そして、その日本こそが、自転車乗車中の事故率・先進各国中ダントツのナンバーワンを誇っているというもう一つの事実。
これはどう考えても、現在の交通行政の失敗だろう。その失敗の本質は、自転車を歩道に上げてしまって、自転車を「無責任な交通機関、歩行者と同じくモラルとルールがゆるい」という存在にしてしまったところにある。
弱者優先の大原則を誤って運用し、車道をクルマの聖域にしてしまったところにこそ、問題の本質はあるのだ。
だが、今、提出されようとしている法案は、明らかに、その失敗をさらなる失敗に導く法案だといえる。自転車レーンを作らなければならない。そうでなくとも、車道の左側は「自転車優先」というのを徹底しなければならない。その上で、自転車のルールとモラルを確立しなくてはならない。これこそが王道だ。
だが、そういった「今、本当にやらねばならないこと」つまり道路インフラの整備などの当たり前のことをまったくやらず、ついに政府当局は、世界に冠たる糞バカな「法整備」とやらに乗り出してしまった。
何という絶望。
問題の根底には「縦割り行政」「事なかれ主義」「天下り」「エセ無謬主義」「役所内の先輩後輩意識」「失政隠し」といった日本の役所のサイテーな点がすべて表れているといえよう。自転車人のためだけでなく、日本人一般と、地球のためにも、マジでマジでまずい。
我々はいったいどうすればいい。
どんなアクションを起こせばいいというのだろうか。【参考】朝日新聞東京版(11/30付より)
自転車、歩道走行認めるルール作り事故急増で警察庁
自転車が走るのは歩道か、車道か――。道交法上は「車両」として、車道通行を義務づけられながら、実際には歩道走行が黙認されてきた自転車のあいまいな位置づけを警察庁が約30年ぶりに見直す。歩行者をはね、自転車が「加害者」になる事故の急増を重くみた。来年の通常国会に提出する改正道交法案に歩道を走れる要件を定め、位置づけを明確化する。
自転車の事故件数の変遷
国民の3人中2人に普及する身近な自転車だが、「車道の左側端を通行する」と定めた道交法の原則は78年以降、変わっていなかった。「自転車通行可」の交通規制がある歩道が約4割にとどまっているなかで、多くの自転車が歩道を走り、一方で検挙されるケースはほとんどなかった。
昨年1年間に自転車が歩行者をはねた事故は2576件で、10年前の4.6倍。背景には、自転車利用者の増加や運転マナーの悪化があるとみられ、自転車が関係した事故全体でも1.3倍の約18万3000件に増え、全交通事故の2割を占めた。
また、健康増進や環境保護対策の観点からさらに自転車の利用増加が予想されるため、同庁は4月、識者がつくる懇談会に、自転車の安全利用のあり方について諮問し、30日に提言を受けた。
改正法案では、車道左側端を通行する原則を維持するが、「子どもや高齢者、買い物目的での利用」と、「車道通行が著しく危険な場合」に限って歩道走行を認めるべきだとした提言に沿って、具体的なケースを規定する。
また、昨年の自転車乗車中の事故死者846人のうち、約7割が頭部損傷が死因になったことがわかり、幼児・児童を中心に自転車利用者にヘルメット着用を求める規定を改正法案に盛り込めないか検討する。
マナーの悪化に対し、同庁は4月、信号無視、一時不停止、明らかな酒酔い運転など悪質性の高い交通違反に対して交通切符による積極的検挙を行うなど、自転車利用者に対する取り締まり強化の方針を全国の都道府県警察に通達している。
また、疋田智の「週刊 自転車ツーキニスト」では、この問題に関する続報が何度も届けられています。是非お読み下さい。